・1章高く昇る太陽。それはまるで血のように赤く。 燃え滾るような光線は、戦いを催促するよう。 では、お望みどおり。 若き血しぶき、ご覧にいれよう・・・ 新入生は大広間に集められている。どうやら、目の前にある機械とカプセルの使用用途に興味津々のようだ。 ぶっちゃけた話、そこまで期待してもらっても困る。 はたから見ればカプセルの中に横たわり、スクリーン上で戦っているようにしか見えないのだから。 まぁ、簡単にいっちまえばアクション映画みたいなもんだな。 ・・・それが面白いかどうかは個人の趣味だが・・・ ここで属性の話をしておこう。前述のように、人個人には属性なるものが存在する。 おおまかに分けると、炎、風、氷、雷、光、闇、全・・・それに、世界に1人いるかどうかの理だ。 前者6つは見ての通りそのままだが、全というのは、光と闇を除く4属性に通じている・・・ということだ。ただし術威力は特化・・・要は炎など、単一属性のものよりは少し劣る。 理というのは、この世の全ての理を使えるということ・・・つまるところ無敵だ。 どんな術にだって特化でき、最強のステータスを誇る・・・まさに万能といったところか。 ただし、その存在すら疑問視されている節があるが・・・ ちなみに、その属性の術しか使えないというわけではなく、あくまでその属性に適している程度だ。 だから光属性の俺が闇魔術を使うことだって可能だ・・・可能ではあるが、威力は闇属性のそれにはるかに落ちる。 ・・・なにはともあれ、学長の長い挨拶(余談ではあるが、彼は20代後半らしい)も終わり、ついに俺らの出番がやってきた。優秀な生徒といったが、その実はくじ引きだ。 で、選ばれた優秀(というよりは幸運)な生徒が俺とアランというわけだった。 別に今日の友が明日の敵・・・なんてのはよくある話なご時勢であるが、少し悲しくもある。 そりゃそうだろう? 戦いの合図は、お互いに頷きあうだけだった。 まぁそりゃそうだ。これから殺し合いをするといったって、模擬戦闘なんて日常茶飯事だからな。 俺とアランは、新入生の好奇の視線にさらされつつカプセルに入った。 扉が閉まり、微弱な機械音とともに全身をスキャンされていく。そして俺は、数値となってヴァーチャルルームに・・・端的に言えば飛ばされた。 奴は先に入っていたようだ。 笑を含ませながら、奴は軽く俺に向かって頷いた。 「・・・行くぞ。」 そういって頷いて、俺らはお互いに相手に向かって踏み込んだ。 間合いは6歩といったところか。それを3歩でつめ、両手の剣で水平になぎ払う―! 「・・・っつ・・・!」 微妙な苦痛に顔をひきつらせながら、アランは後ろに飛びのき、 「くらえ、―Eis!」 なおも追ってくる俺に向かって、氷の弾丸を放ってきた・・・! 「甘い、luce!」 それを、前に展開した光の盾で防ぎ、さらに間合いをつめ、右袈裟で切り捨てる! 奴は剣でそれを弾き、その勢いで回転して大上段で斬ってきた―! 双剣で大上段を受け止め、初めて両者に膠着状態が生まれる。 「・・・ふ、チェックメイトだ!」 アランはそう叫び、ここぞとばかりに力を込める。力では奴に勝てない・・・ならば・・・ 「それはこっちの台詞だ、Fortificando!」 俺の肉体自身を強化し、奴の剣を弾き返すまでだ―! 「くっ、肉体強化か・・・」 アランはそういって剣を引き・・・ 「終わりだっ――!」 俺はその隙をついて、下から上、左袈裟、右袈裟、上から下へと連撃をかました―! かくして、模範戦闘は俺の勝ちに終わった。 後に残ったものは、新入生の歓声と、後味の悪いなんともいえない感じ・・・そう、友人を切り捨てたという不快感だった・・・。 夜の中庭を歩く。 何かの目的も無く、あてもなく。ただ、彷徨うのみ。 夜の空は高く、どこまでも黒だ。 「よう、夜の散歩かい?」 声がした方角、自分の正面を見ると、そこにはダンがいた。 「洒落ちゃいないけどな、そんなところだ。」 するとダンは妙に生真面目な顔になって、 「もう20近いだろ?そろそろ彼女の一つも作らにゃまずいぜ?」 なんて事を言った。それを軽く流しつつ、 「とりあえず座るか。」 俺達は中央の噴水が正面に見えるベンチに腰掛けた。 …。 …。 妙に重い沈黙が続き、そろそろ口を開こうとしたその時、 「皮肉なもんだな…」 とダンが言った。 「あぁ?何がだよ?」 「俺達はこうして仲良く座ってるが、ここを卒業したら軍人だろ?」 「まぁそうだな…で?」 「鈍いヤツだな…いいか、軍人ってのには敵味方あるわけだ。」 「そりゃあそうだろ。俺達はどちらかにつかなきゃならないだろうな。」 「楽観的だなおい。俺達が、いまこうして話してる俺とお前が、敵味方で殺しあうなんてこともあるわけだろ?」 「…ああ、覚悟の上さ。」 「…すげえな、俺は怖い。俺は模範戦闘でさえできやしないさ。甘すぎるんだ…」 (俺だって好きでやってる訳じゃない。運命ならば従うまでなんだ…) 言おうとしたが、言えなかった。 寒さで唇がかじかんだこともある。が、それ以上に空気が、心が重かった。 本心でないことは確かだ。俺だって仲間を傷つけたりはしたくない。 楽観的といえばそうなのかもしれない。現実から逃げているのも事実だ。 だが、あと少し、人生においてほんの短い時間だけでも、こいつらと仲間でいたいんだ… 今度も、沈黙を破ったのはダンだった。 「だから俺は、ここを使う仕事をすることにするよ。」 今度は少し、笑いを含ませて、ダンは頭を指差しながら言った。 「はっは、頭を使う仕事はお前にゃ無理だ!」 だから俺も、無理矢理笑った。 少々の沈黙、そして、今度は俺から沈黙を破った。 「戦争があるとしたら…その時はみんなで一緒に戦えるといいな。」 噴水から吹き上げる、ろ過された美しさ、人工の輝きをもつ水をみつめながら俺は言った。 「ああ…ないほうがいいけどな。」 ダンは月を見上げながら、そういった。神秘的だが柔な輝き。汚そうと思えばすぐにでも汚れてしまう美しさ。 やがて、ダンは、 「徹夜する気はないからな、俺は寝る…おやすみな。」 と、大欠伸をしながら寝床に帰っていった。その目線は夜空と平行に、まっすぐ正面だけを見つめて…。 5分ぐらい経っただろうか。流石に寒くなってきて、俺は寝ることにした。 「寝るか…」 そういいつつ、噴水の向こうを何気なく見ると、 そこには。 長い漆黒の髪の少女がいた…。 数秒見惚れた後、後れてきた不審感より声を掛けようとしたその瞬間、少女は髪を翻し走り去っていった。 「…?変なの…。」 俺は開きかけた口を閉じ、寝床へ向かって歩き出した。 向こうに待つ明日へ。 そして、二度と戻れない今に別れを告げて。 |